中国の鉄道は非常に長く、日本JRの5倍近い鉄道総延長距離をもち、世界でも有数の長さです。さらに、まだまだ勢いをもって新線が開業しています。それだけに、東西南北を駆け巡る鉄道旅行の魅力は大きいと言えます。
下記に示すのは、中国鉄道時刻研究会が作成した中国鉄道の2018年10月時点の路線図です。どのくらいのスケールなのか、見てみましょう。
さて、そんな広大な中国の鉄道。一体どんな列車が走っていて、乗り心地はどうなのか? そんな疑問にお答えするため、中国鉄道時刻研究会が発行する「中国鉄道旅行ガイド」から、中国鉄道の列車と、座席/寝台をご紹介します。
中国鉄道のしくみ
全国鉄道網は国鉄による一元的運営
中国では、都市鉄道は都市交通ネットワークの一部であり、全国鉄道網=国鉄とは切り離されている。都市鉄道は各都市が運営しており、国鉄と乗り入れることもない。監督官庁も技術基準も異なっており、都市鉄道と国鉄は全く別の乗り物だと考えなければならない。
全国鉄道網の各路線は、基盤施設の建設・保有・運営主体の違いによって、国家鉄路・地方鉄路・合資鉄路に分けられる。それぞれ、国鉄の直轄路線( 狭義の国鉄)、地方政府が建設して国鉄に接続させている路線、国鉄と地方政府が合弁して建設した路線を言う。
列車は、中国国家鉄路集団有限公司を頂点とする指揮命令系統の中で国鉄の地方本社(局集団有限公司)等により運転されている。運賃は原則として通算し、きっぷも1 枚で発売されるため、日本と違い、旅客は路線の帰属や列車の運営主体を意識しなくてよい。
「中国鉄道ガイド」では、この全国鉄道網を中国国鉄と総称する(広義の国鉄)。「中国鉄道時刻表」が収録するのも、この広義の国鉄の時刻である。
列車と路線の類型
日本ではミニ新幹線を除けば在来線と新幹線で列車と路線の類型がきれいに分かれる。それに対し、中国では、従来からある路線と高速新線とで軌間が同じであり、相互の乗り入れが盛んなため、この類型はやや複雑である。
列車は、機関車と客車からなる客車列車と、固定編成の電車による電車列車に分けられる。中国では動力分散型電車の多くが時速200km 以上で走る中速・高速鉄道車両として導入されたので、電車といえば速い列車のイメージが強い。しかし、近年では電車の低速運用も始まっており、電車列車の全てが速いわけではない。
路線は、次の表のように、大きく3 つの類型に大別できる。
最高速度 | 電車列車 | 客車列車 | 貨物列車 | |
普速鉄道 | ≦160km/h | △ | ◯ | ◯ |
快速鉄道 | 160km/h<,≦250km/h | ◯ | △ | △ |
高速鉄道 | 250km/h< | ◯ | ✕ | ✕ |
◯は運転すること、△は特定の路線で少数運転すること、✕は運転しないことを示す。 |
ただし、実のところ、地理環境や輸送需要に合わせて、様々な特徴を持つ路線が建設されているので、上表の範囲に収まらない例外が出現する。最高速度や列車類型から路線の性格を定義することには様々な困難がある。
本ガイドでは、路線による分類は混乱を招きがちなのでこれをできるだけ避け、列車に着目して分類するように努めている。以後、原則として客車列車と電車列車に大別して案内することとする。
列車種別と設備の紹介
高速動車組列車(高速)(列車番号G)
最高速度300~350km/h で運転される電車列車である。快速鉄道に乗り入れる際はD列車と同じ速度となるが、運転区間のうちどこかで時速300km/h に達するのがD列車との違いである。三角表運賃を施行しており、具体的な運賃は12306サイトで確認してほしい。季節・列車により運賃が変わることがあるが、あくまで事前公示制であり、同じ列車についてきっぷを買う時期によって運賃が変わることは無い。
快速鉄道乗り入れ区間においては、同じ区間を走るD列車と一致するように運賃が調整されていることが多い。
動車組列車(動車)(列車番号D)
最高速度160~250km/h で運転される電車列車である。接客設備はG列車と大きく変わらない。快速鉄道で主に運転されている。
高速鉄道に乗り入れる際も最高速度は250㎞ /h を超えないので、G列車とは明確な速度差が出る(一部、高速鉄道乗り入れ時にG列車と同じ速度を出すものもある)。2018年からは、動力集中型動車組CR200Jによる運転される列車もあり、この場合、座席車は集団見合い式の方向固定リクライニングシートとなる。
運賃は原則として対キロ制の包括運賃である。
城際動車組列車(城際)(列車番号C)
短中距離の電車列車のうち特定路線の隣接都市間で運転されるものが特に城際動車組列車を名乗る場合がある。車両も一部で近郊型が用いられる。
三角表運賃を施行しており、具体的な運賃は12306サイトで確認してほしい。
直達特快列車(直達)(列車番号Z)
最高速度160km/h、25T客車。快速料金適用。
特快のバリエーションの一つで、最新鋭の25T客車で編成された列車を明示するために名称・記号を別としたものである。
元来は2004年に登場したノンストップ夜行列車を表す種別だったが、その便利さが買われて停車駅が増えていき、ノンストップという特徴が希薄化していた。そのため、2014年に定義が変更され、ノンストップかどうかにかかわらず25Tで編成された列車は原則としてZ列車と称することとなった。25T客車は車齢が低いこともあり、設備は下位種別よりも優れていることが多い。
特快列車(特快)(列車番号T)
最高速度160km/h、25K客車等。快速料金適用。
主要幹線や一部地方路線に設定された優等列車である。数百キロに一つの停車駅で飛ばしていくその速さは下位種別に比べて際立っている。
運賃負担軽減政策の下、Z列車もT列車も特快料金を施行しておらず、快速料金を適用しているので、同じ区間にZ,T,K列車が走っていたら、ぜひZ,T列車に乗車したい。
快速列車(快速)(列車番号K)
最高速度~140km/h、25G客車等。快速料金適用。
中国国鉄の客車列車で最も本数の多い種別であるが、その中身は多様であり、典型が存在しない。
短距離から長距離まで、あらゆる距離帯を結ぶ列車がK列車として運転されている。また、増収のために、普快列車が大して速くなるわけでもなくK列車に昇格することが続いているため、普快列車より速いとも一概に言えない。
普通旅客快車(普快)(列車番号 アルファベットなし1001~5998)
最高速度~140km/h、25G客車等。普快料金適用。
2000年にスピードアップされ種別が4つ(特快、快速、普快、普慢)に増えたが、普快はそれより前から運転されている速達列車の流れを汲み、中小都市にこまめに停まっていく列車である。
こちらもK列車と同じく短距離から長距離までバラエティ豊かだが、近年、快速への格上げが続いており、本数は減少している。日本の急行列車同様の存在と言え、今後もK列車に取り込まれる傾向は続くだろう。
普通旅客慢車(普慢)(列車番号 アルファベットなし6001~7598)
最高速度~120km/h、25B客車等。加快料金不要。
各駅に停車する列車である。中国国鉄は、沿線の短距離輸送は原則として道路交通に移譲しているが、沿線の道路交通が不便な地域を対象に、1日1往復程度の普慢列車を設定し、沿線小駅から中心都市への往来を確保していることがある。鉄道職員の送り込みや小駅の資材運び込み等の任務を担っていることも多い。
旅遊列車(旅遊)(列車番号Y)
特に観光向けに設定された列車が名乗る種別である。快速料金が適用される。
市郊列車(市郊)(列車番号S)
一部路線で運転されている都市近郊列車である。
列車番号・愛称について
一部の列車は国鉄の栄誉称号や企業が手に入れた命名権に基づく商業的愛称がついているが、これらは旅客案内やきっぷの発売では一切用いられない。したがって、あくまで列車番号が旅客営業上のキーとなる。
列車番号は走行線路の上り・下りにより偶数・奇数が変わるが、どちらの番号でも同じきっぷを購入することができ、旅客が区別する必要はない。きっぷに記載されるのは券面発駅出発時の列車番号なので、駅ではこれをキーにして発車番線等を判断すればよい。
【電車列車編】座席・寝台の紹介
高級軟臥(電車)
CRH1E型1061~1072編成で運転される夜行寝台電車列車に連結されている寝台。1室2人で、室内の設備は2段ベッド1組、扉、ソファ、クローゼット。照明は部屋単位で操作できる(軟臥も同じ)。トイレ・洗面台は共同。車端にソファが置かれたリビングスペースがある。きっぷの発売は寝台単位で行われるため、定員未満の乗車では他人と同室になる可能性がある(軟臥も同じ)。
現在、上海虹橋~深圳北/広州南の一部の夜行寝台列車で運用されている。
軟臥(電車)
一般的な夜行寝台電車列車に連結されている寝台。1室4人で、室内の設備は2段ベッド2組、扉。トイレ・洗面台は共同。客車よりも小ぶりな高速鉄道の車体に寝台を載せているため、上下スペースが狭く、荷物置き場が少ない。窓も低いため上段からの車窓は無い。寝台の居住性はまだ客車に優位性がある。
なお、2018年から、この設備が、より下位の動臥として発売されている事例が見受けられる。12306サイトで調べた場合、同じ列車に二等座とともに出現する「動臥」は、実際には軟臥である(下記の動臥が含まれる車両は二等座を有していないため)。
動臥
2017年に登場した新しいタイプの寝台。CRH2E型2463~2465編成で運転される夜行寝台電車列車に連結されている。個室をやめ、中央の通路を挟んで、線路方向に2段の寝台を互い違いに配置した。カーテンも設置してプライバシーを確保したうえ、軟臥よりも定員を増やしている。下段と上段のそれぞれに窓を配したので、車窓も保証されており、これが一見すると2階建てに見える本車両の特徴となっている。
現在、北京西~昆明南の夜行寝台列車D939/D930で運用されている。運賃は軟臥よりも安い。
商務座
中国国鉄電車列車のファーストクラスであり、全国のG列車に連結されている。本革張りシートを1-2のゆとりある配列で設置。このシートは電動でリクライニングし、最大でフルフラットになる。身長180センチの人でも楽に横になることができる。
商務座はサービスも充実している。専属のパーサーが乗務しており、新聞・スリッパ・毛布の提供がある。座席に内蔵されたディスプレイで音楽や映画を楽しめるほか、タブレット端末が各席に備え付けられている場合もある。飲み物は飲み放題で、朝・昼・晩の食事時間帯に差し掛かる場合は無料で弁当が提供される。なお、局管内のみ運転する短距離のG列車等では座席のみの営業となっている場合がある。
最高級座席だけに、運賃は上記の寝台よりもさらに高く、一等座の約2倍。
特等座
特等座として発売される座席には二種類あるが、いずれもメインの座席ではない。
一つは、運転室後ろの空間に、一等座と似たシートを1-2のゆとりある配列で設置した座席。初期に製造された一部の電車列車にしかついておらず、のちの車両は特等座ではなく商務座を設置するようになったので、目にする機会が少ない座席となっている。
いま一つは、2人+2人向かい合わせまたは3人+3人向かい合わせの個室座席。一等包座とも呼ばれる。こちらも一部の初期編成にしかついておらず、目にする機会が少ない。
一等座
2019年1月から登場したCR200JによるD列車では、集団見合いのリクライニングシートとなり、運賃は一般のD列車よりいくぶん安い。
ほとんどの電車列車に連結されている、上級の座席。大きめのシートを2-2配列で設置しており、日本の新幹線のグリーン車とよく似ている。
座席は回転リクライニングシート(例外あり)。担当局によっては無料で飲み物の提供がある場合がある。通路にディスプレイがあり、ニュース番組や広告を放映していることが日本と異なる点の一つである(二等座も同様)。運賃は二等座の約1.4~1.6倍。
二等座
CRH6グループによる近距離のC,D列車では、集団見合いのクロスシートとなる。また、2019年1月から登場したCR200JによるD列車では、集団見合いのリクライニングシートとなり、運賃は一般のD列車よりいくぶん安い。
ほとんどの電車列車に連結されている、通常の座席。シートを2-3配列で設置しており、日本の新幹線の普通車とよく似ている。座席は回転リクライニングシート(例外あり)。電車列車で最下位の設備とはいえ、客車列車の硬座に比べれば、座席のクッションが効いており、リクライニングし、足が伸ばせるため、居住性は格段に良い。
運賃は同じ距離を走る客車列車の軟臥より少し高い水準。
代座運用
夜行寝台電車列車の車両を昼間に間合い運用することがあり、この時に、軟臥の下段に3人座らせるようにし、二等座として発売することがある。この場合、12306サイトでは確認画面が表示されるし、券面にも「軟臥代二等座」と記載されるのでそれとわかる。
共通設備
電車列車車内にはトイレ・洗面台のほかに荷物置き場・給湯器がついている。ほとんどの車両には各座席に電源もついている。エチケット袋が各座席に配布される。
【客車列車編】座席・寝台の紹介
料金は運賃・料金表(中国鉄道時刻表449ページ掲載)を参照していただきたい。なお、「軟」が含まれる等級を軟席と総称し、「硬」が含まれる等級を硬席と総称する。
高級軟臥
一部の列車に連結されている高級な寝台である。1室2人で、室内の設備は2段ベッド1組、扉、ソファ、クローゼット、セキュリティボックス、トイレ、洗面台。これらの他、本項以下軟臥まで、ハンガー、ポットが備わり、車内放送と照明は部屋単位で操作でき、また、列車により衣類ブラシ、靴磨き用クロス、スリッパが提供される。
きっぷの発売は寝台単位で行われるため、定員未満の乗車では他人と同室になる可能性がある(軟臥も同じ)。
一人軟包
一人軟包は、麗江~昆明の一部列車に連結された家族向けの寝台である。1室3人で、室内の設備はセミダブルベッド1つとシングルベッド1つが上下に組み合わされており、扉が閉まる。夫婦と子供1人の家族がまとまって乗車するのにうってつけの設備となっており、1枚のきっぷで3人が乗車できる。
軟臥
ほとんどの長距離列車に連結されている上級の寝台。1室4人で、室内の設備は2段ベッド2組、扉である。車端には硬臥車にはない洋式トイレが設置されている。硬臥よりもベッドが分厚くてやわらかく、幅も75センチと広い。
下段と上段の間の高さは95センチ、上段と天井の間の高さは80センチ、ベッドの長さは190センチ。2階建て客車では、2階の個室は1段ベッド2組の2人個室となる。
包厢硬臥
国際列車の硬臥は、軟臥と同じ1室4人の構成の個室に、硬臥の薄いベッドを設置したものとなる。これを特に包厢硬臥(包厢は個室の意味)という。国際列車用の車両を格下げして国内で運用している列車にも連結されている場合がある。
硬臥
ほとんどの長距離列車に連結されている通常の寝台。開放型とセミコンパートメントタイプがあり(営業上は区別されない)、いずれも1区画6人で、3段ベッド2組である。扉は無い。ベッドの寸法は幅60センチに長さ180センチ、下段と中段の間の高さは95センチ、同じく中段と上段は75センチ、同じく上段と天井は55センチである。
上段は狭くて車窓が見えないが物音が入りにくいので寝るにはよい。中段は出入りしやすいし車窓もあるので多くの人に好まれる。下段は最も出入りしやすいが、昼間は上段・中段の人が座る場所ともなるので、好きな時に寝られるとは限らない。料金は上中下で差異があり、順に高くなる。通路にも座席とテーブルがあり、車窓を眺めたり食事を摂ったりする場所として重宝する。
硬臥は、廉価だが必要な快適さを備えた設備として人気が高い。軟臥の個室に無い開放感を求めて、わざわざ硬臥を選ぶ人も少なくない。
硬臥は、長距離列車だけでなく、昼行の短中距離列車にも連結されることがある。これは、硬座に対する優等設備として軟座ではなく硬臥を連結したもので、昼寝しながら移動する選択肢を与えてくれるものである。
軟座
昼行の短中距離列車の一部に連結されている上級の座席。固定クロスシートを2-2配列により隣同士向かい合わせで設置している。硬座よりもシート幅やシートピッチが広いとはいえ、電車列車の二等座に比べると居住性はかなり落ちる。特に乗客が少ない時になると、硬座は3人掛けシートで横になったり、向かいの座席に足を投げ出したりすることができるが、軟座はそれらができないので、硬座よりも居住性が悪い場面すらある。
日本の普通列車グリーン車に似て、軟座車はビジネス利用が見込める区間にしか連結されないが、そうした区間はほとんどがもはや電車列車に移行したため、軟座車が連結された列車は極めて少ない。リクライニングシートを装備することもある特等軟座車や一等軟座車・二等軟座車も存在するが、同様に運用は極めて少ない。
硬座
ほとんどの列車に連結されている通常の座席。固定クロスシートを2-3配列により隣同士向かい合わせで設置している。普通硬座と新空調硬座で設備が大きく違い、新空調硬座の方がシートピッチが広く、背ずりが傾斜しており、座面も柔らかいため、普通硬座よりも居住性はかなり良い。
輸送力確保のため夜行列車にも積極的に連結されるが、この座席で夜を越すのは負担が大きい。また、立ち席客が乗るのも硬座車であり、満員になるとトイレに行くのも一苦労になるなど、混雑すると居住性が著しく落ちる。
代座運用
車両運用の都合で寝台車を座席車として使用することがある。軟臥の下段に3人座らせるものは軟臥代軟座として発売し、硬臥の下段に4人座らせるものは硬臥代硬座として発売する。この場合、12306サイトでは確認画面が表示されるし、券面にも「軟臥代軟座」ないし「硬臥代硬座」と記載されるのでそれとわかる。
新空調客車と普通客車の違い
客車列車には、新空調と普通の違いがある。
新空調客車は,「集中電源方式で空調サービスが提供される客車」と定義されており、すべての運賃・料金が5割増しになる。新空調客車では、冷房と強制通風の設備があり、暖房は電気暖房である。今日ではほとんどの列車は新空調となっている。
普通客車は、冷房と強制通風の設備が無く、夏は窓とベンチレータによる自然通風と扇風機に頼るものである。暖房は各車両に設置された石炭ボイラーによる温水暖房である。普通客車は1980年代以前製造の旧型車両が中心で、年々淘汰されてきているが、25型と呼ばれる新しい世代の客車でも普通客車の設備で製造されるものがあり、今後もローカル列車を中心にしぶとく活躍する模様だ。
また、軟席の車両を中心に普通客車でも冷房と強制通風を設置したものがあるが、集中電源方式ではなく床下発電機によるため、新空調とは区別される。